どうして私はこんなに音楽が好きなのに、本番では実力が発揮できないのだろう・・・

寒さが肌を突き刺すような、冬。

それは、ドイツの大学院に入ったときでした。

海外でピアノを教える――子どもの頃からの夢を持って、ドイツへ留学。

ピアノ演奏とピアノ教育を本格的に学ぶために単身でやってきた、

雪が積もるドイツの街並み。

異国の地での孤独感を感じながらがむしゃらに学ぶ中で、

私はなんとも言えない焦燥感を感じていました。

クラス発表会やステージに立つたびに緊張に押しつぶされそうになる。

練習ではできていたことが、本番となるとできなくなる

本番が終わった後、「もっとできたはず」と自分を責めてばかり

音楽をすることはどうしてこうも難しいのだろう。

音楽が大好きな気持ちは本物で、こうも努力しているのに、

なぜ結果がついてこないのだろう。

その時、10年以上舞台上でのあがりに悩んできた私にとって、

何かを変えなければいけない時が来ていました。

それは、音楽を愛する気持ちを守るためでもあり、

音楽と本当の意味で繋がり直すためでもありました。

音楽――常にそこにあり、私の人生を支えてくれたもの

音楽は、私が子どもの頃からずっと生活の中にありました。

(幼稚園の卒園アルバムのには「大きくなったらぴあののせんせいになる」と書いてあります)

ピアノの練習は初めは好きとは言えなかったけれど、毎日ピアノを弾いていて、

辛い時も嬉しい時も、

音楽は私を側で見守っていました

けれど、

14歳のコンクールで大失敗をしてから、

本番でのあがりに悩むようになりました。

練習をどれだけ重ねても、

大小関わらず、とにかく「本番」が怖い

本番では緊張が襲い、

自分の音楽が出せない

舞台に立つたびに、自信がない

そんな自分にがっかりして、もどかしさを感じたこともたくさんありました。

「自分には音楽の才能がないのではないか」

と思い悩んだことがあります。

「結果が出せない自分には価値がない」

とさえ思ったこともありました。

でも、どうしても音楽を手放すことはできませんでした。


なぜなら、音楽は私にとって、ただの趣味や仕事ではなく、

「生きる力」そのものだったからです。

音楽が私を支え、私を動かし、未来への希望をくれるものであることを、

心の奥底ではわかっていたのです。

緊張に押しつぶされるような舞台の経験を繰り返しながら、

「どうしてこんなに努力しているのに本番となるとあがってしまって自分らしい演奏ができないのだろう」

と悩み続けました。

練習時間に見合った上達がなかなか感じられず、ピアノを弾くことというのはなんて難しいのだろう、とも。

そんな時、私は、

メンタルトレーニングと出会いました。

私はドイツの大学院でピアノ教育の勉強をがむしゃらにする中で、

初めて音楽心理学、そしてスポーツ心理学分野ではもっと研究されてきた

「メンタルトレーニング」

というものに触れました。

そのとき、私の中で何かがピン!ときました。

それは、私が長い間探し求めていた「鍵」を見つけたような瞬間でした。

練習の質を高めること、心を整えること、自分自身を信じること。

それらを通じて、

音楽と自分、

そして聴衆との「つながり」

を取り戻す感覚がありました。

お客さんを無視して自分の音楽に没頭することを目指すのではなく、

その空間にいるみんなの細胞が反応しあい、協奏するような感覚

何よりも大きかったのは、

私が自分自身を「才能がない」と決めつけていた壁を乗り越えられたことでした。

そうして私は

「音楽家のためのメンタルトレーニング」をテーマに、博士課程での研究を始めました。

これは、私が10年間かけて研究してきたメンタルトレーニングと私のストーリーです。

ドイツの2人の恩師と音楽心理学との出会い

私にとって大きなひとつ目の転機だったのは、

ドイツのピアノ恩師、故レームシュテット先生との出会いでした。

レームシュテット先生は

「音楽の持つイメージ」

を非常に大事にしていて、

初めてピアノや音楽に触れる子どものレッスンでもとにかく

「音をイメージする、そして出た音を聴く」

ことを大事にしていました。

ふたつ目は、

ドイツのピアノ恩師、ケーラー先生との出会いでした。

彼は当時私が通っていた大学の教授であり、

後に私の博士課程の指導教官となる人でした。

彼のレッスンでの音楽への本質的なアプローチのひとつひとつに心の奥深くが揺さぶられるような感覚を覚えたのを、

今でもよく覚えています。

彼が特別だったのは、

レッスンの中で自然な形でメンタルにも寄り添うアプローチをしてくれたことでした。

練習の取り組み方

感情をどのように音楽に溶け込ませるかなど、

彼の教えは、私がそれまで知っていた「練習/演奏とはこうあるべき」という堅苦しい枠を壊していきました。

音楽家にとって、練習を重ねても「本番で力を発揮できない」もどかしさは、避けられないものだと思っていませんか?

私自身も、長い間そう思っていました。

ですが、ドイツでの恩師と音楽家心理学そしてメンタルトレーニングとの出会いが、

その考えをがらりと変えてくれました。

音楽は、「心」「身体」「感情」のつながりで初めて生まれる

恩師のレッスンを通じて、その本質に気づいた私は、音楽を心から楽しむ感覚を取り戻しました。

もうひとつの転機は、大学院の授業でとった「音楽心理学」の授業でした。

ここで「音楽家のあがりとの付き合い方」というテーマの授業を受け、

「これだ・・・」

と直感的に感じた私は、

自ら手を挙げ、ドイツ語でそのテーマについて発表もさせてもらいました。

その後、修士論文のテーマに「音楽におけるメンタルトレーニングの理論と実践」というテーマを設定しました。

その経験と出会いが、私をメンタルトレーニングの研究の道へと繋いでくれました。

上記の論文が1.0というドイツでは最高の点数で評価されピアノ教育で修士号を無事取得したあとは、

ドイツのスポーツ界でのメンタルトレーニング研究の大御所、シュトル教授のもとで、博士課程でさらなる研究を続けました。

そして今、その経験を通じて得たメンタルトレーニングのエッセンスをここであなたにシェアします。

音楽家がメンタルトレーニングを取り入れる意義とは

メンタルトレーニングという言葉から多くの人が真っ先に思い浮かべるのは

「イメトレ」(別名「ビジュアライゼーション」)

かもしれません。

確かに、それはメンタルトレーニングの一部であり、重要な役割を果たします。

でも、それだけじゃなかったんです。

イメトレだけではなく、

メンタルトレーニングには実に多彩なアプローチが含まれています。たとえば・・・

心拍数を整え、瞬時に心を落ち着かせるスキル

自分を励まし、肯定感を高める方法

感情の整理術で、緊張や不安を力に変えるプロセス

練習計画の立て方やタイムマネジメント術で、効率的な練習時間を確保するテクニック

そして、自分と音楽、聴衆とのつながりを意識し、深めるためのリフレクションの習慣・・・

実際にはもっとありますが、これらすべてが、メンタルトレーニングの一環です。

それは「演奏のための準備」という枠を超えて、

「音楽家として、そして一人の人間としての在り方」を整える方法

でもあるのです。

メンタルトレーニングは、「舞台に立つ前だけに使うもの」ではありません

日常から繰り返し行うことで、緊張を克服するだけでなく、心と身体、感情を一つにし、自分が本当に目指すべき未来へと進む力を育んでいくもの。

音楽を心から楽しむために、そして人生そのものを豊かにするために、メンタルトレーニングは存在しているのです。

メンタルトレーニング4つの領域

私は、音楽という分野でメンタルトレーニングが持つ多彩なスキルの数々を、

わかりやすくそして取り入れやすくするために、

次の4つの領域に分けて整理しました。

① アクティベーション調節


・・・緊張や興奮状態をコントロールし、ステージでも自分のベストを引き出すための方法。呼吸法やリラクゼーションテクニック、身体と心のバランスを整えるスキルが含まれます。

② モチベーション調節


・・・日々の練習や本番に向けて、自分のやる気を引き出し維持する方法。セルフトークや目標設定、タイムマネジメントがその一部です。

③ 感情調節


・・・緊張、不安、プレッシャーなどの感情を整理し、演奏に活かすスキル。感情を受け入れながら、エネルギーに変える力を育てます。

④ メンタル練習法


・・・ビジュアライゼーション(イメージトレーニング)そして演奏の質を向上させるためのメンタルリハーサル。演奏の前だけでなく、日々の練習に取り入れることで、効果を最大化させます。

これら4つの領域は、ただ舞台上での緊張を和らげるためだけのものではありません。

それぞれが互いに補完し合いながら、音楽家として、そして一人の人間としての成長を支える土台となります。

詳しくは昨年ヤマハから出版した私の著書にも記載しているためここでの説明は割愛しますが、このすべての領域において、学び、身につけ、実践できるスキルが、「音楽家のためのメンタルトレーニングLABO」 には詰まっています。

実際、本の内容をLABOでは更に実践に落とし込めた!というお声もたくさんいただいています。

音楽家のためのメンタルトレーニングLABOは、自分の心を深く知り、音楽と人生をより豊かにするための「学びと経験の場」です。

メンタルトレーニングで変わった何百人の音楽家の演奏と人生

これまで私は、最先端の研究を続けていくために、

ドイツのドレスデンで行われたヨーロッパピアノ教育協会の世界大会、

ドイツスポーツ心理学協会50周年記念コンファレンス、

ヘルシンキでの国際音楽教育学会大会、

日本音楽教育学会や日本音楽表現学会、

今年もRiME(THE 14TH INTERNATIONAL CONFERENCE FOR RESEARCH IN MUSIC EDUCATION)などで、

音楽家のメンタルトレーニングに関する講演や研究発表をしてきました。

私自身、ドイツ音楽家身体心理学会(DGfMM)などでのインプットや学びも続けています。

そして今もたくさんの素晴らしい共同研究者たちに恵まれています。

また、研究だけでなく、メンタルトレーニングの実践も続けています。

スポーツ心理学を学んだ経験から、過去二年間に渡ってフロアボール元日本代表・高橋由衣選手(ブログはこちら)のメンタルトレーニングもしてきました。

また一般社団法人スポーツコーチングJapan様にもお声がけいただき

「極限とメンタルで戦う他領域に越境してメンタルを学ぶ」

というテーマで、元ラグビー日本代表の野澤武史さんとラジコン世界王者の広坂正美さんと一緒に、Sports Coaching Conference 2021でパネルディスカッションをさせていただく

という大変貴重な機会もいただきました。

これらの経験は、メンタルトレーニングの知見を深めるとても良い経験となりました。

私と同じように悩む音楽家を救いたかった私は、

ピアニスト、声楽家、口笛(世界チャンピオン)、トランペット奏者、ホルン奏者、ヴィオラ奏者、ヴァイオリン奏者、ピアノの先生…などなど、

プロアマ問わず、数多くの音楽家と個別セッションをしてきました。

あがり症に悩む生徒さんの悩みの解決をしたい、とセッションを受ける楽器の先生も数多くいらっしゃいました。

セッションした音楽家さんたちからは

「落ち着いて本番に臨めるようになった」

「本番に対する意識が変わった」

「心や集中力の状態に意識を向けやすくなってきた」などのお声をいただいているほか、

数々の国際コンクールで一位をとる!

などの結果も出ています。

個別セッションで教えられる内容も毎回アップデートし、

個別セッションの他にも

より多くの方にメンタルトレーニングを知ってもらうために、

一時帰国時には都内でのセミナーやワークショップも開催してきました。

吹奏楽強豪校の茅ヶ崎の高校にて、

吹奏楽部生に向けてメンタルトレーニングセミナーもさせていただきました。

その他、Rerise News様より取材を受けさせていただいたり、

メンタルトレーニングを多くの方々に届けるために、

クラシック愛好家や演奏家のための音楽にまつわる情報やコラムサイト「COSMUSICA」

カワイ音楽教育研究会機関誌「あんさんぶる」

などにメンタルトレーニングについての連載をさせていただいたり、

アレクサンダートレーニングの先生でもあるホルン奏者のバジル・クリッツァーさんにメンタルトレーニング研究についてインタビューしていただきその対談本が出版されたり、

島村楽器さんのWebメディア(HappyJam)でも本番前の緊張のほぐし方についての記事を監修させていただきました。

そういう経験をする度、メンタルトレーニングの内容もブラッシュアップされていく感覚がありました。

世界のTEDxトークに出演する機会にも恵まれ

「Overcoming Performance Anxiety through Mental Training」(メンタルトレーニングを使ってあがりを克服する)

というテーマで、英語のスピーチもさせていただきました。

また、2022年にはドイツの出版社Springerよりドイツ語の単行本を、

去年はヤマハより単行本

『「緊張」がパフォーマンスを高める!音楽家のためのメンタルトレーニング』

を出版しました。

上記の活動により出会うことができた多くの方々から嬉しいメッセージもいただきました。

そんな中、

「音楽家や音楽をする人たちが、プロアマ問わず、科学的に根拠のあるメンタルトレーニングを長期的に学び実践し落とし込んでいける場を作りたい」

という思いから生まれたのが、

この「音楽家のためのメンタルトレーニングLABO」です。

ここでは、今現在私が研究したり新しく作り上げたワークなども、どんどんリアルタイムで還元しています。

音楽家のためのメンタルトレーニングLABOには

これまで国内外で活躍する音楽家(プロアマ問わず)が多数在籍し、

多くの方が舞台や日常でのポジティブな変化を感じ、

温かく、エネルギーの高いコミュニティとなっています。

私自身も、メンタルトレーニングを取り入れるようになってから、

舞台での感覚が大きく変わりました

緊張が一切なくなったわけではありません。

むしろ緊張はしっかりとしていました。

けれど、その緊張を「敵」ではなく「エネルギー」として

味方につけることができるようになったのです。

私や私と共にメンタルトレーニングをしてきた多くの音楽家さんたちも

メンタルトレーニングを日常に取り入れるようになってから、

以前は怖かった本番が、少しずつ楽しみになっていきました。

自分がすべき準備も当日の過ごし方も、わかっている。

心や集中力の状態に意識を向けやすくなった。

そして音楽が「技術」ではなく「心」で奏でられるようになったとき、

「本来の自分とつながれたと感じるようになった」

「自分自身と向き合うことができた」

「どんな自分でも大丈夫と思えるようになった」

というお声もいただいています。

始まる前から、何か素晴らしいことが起こる予感に包まれる。


音楽に浸り、細胞が踊るような喜びを感じる――。

それは、演奏家が未来を描き、音楽でそれを紡ぎ出す力を持つからこそ実現するもの。

音楽が自分の中を流れ、

自分自身も自然や大きなものと繋がり、

自分を通して音楽が自然に形になっていく感覚。

そしてそれをそこで聴いてくれている人たちと共有し、共鳴し合う瞬間。

音楽家のためのメンタルトレーニングLABOでは、音楽をする人のこうした感覚を再発見し、育てていくお手伝いをします。

メンタルトレーニングで音楽が本来持つ繋がりの感覚を取り戻そう

メンタルトレーニングは、未来、現在、過去をつなげる力をサポートします。

未来を描く――ビジュアライゼーションで、次に何を奏でるべきかを明確に。

現在を感じる――心を落ち着け、今ここに集中する力を引き出す。

過去を活かす――練習や日々積み重ねてきたことを信じ、自分を肯定する力。

これにより、音楽家は緊張をエネルギーに変え、

音楽のもつ時間の流れを自由に紡ぎ出す感覚を取り戻すことができます。

私が理想とする演奏とは、演奏家と聴衆が音楽に包まれ、何かを共有することです。

その何かは、

未来への希望や安心感かもしれないし、

人間が持つ孤独や不安な感情だって含まれます。


演奏している人は、

多くの場合、聴衆よりも少しだけ先を進み、

音楽をリードしていきます。

けれど、過去の積み重ねや現在の感覚も大切にしながら、

音楽の流れを見失うことはありません。


「自分自身を信じ、未来を描き、今ここに集中すること」


これは、私たちが音楽をする上で、大きな力になります。

練習の一音一音が、舞台で自由に音楽を生む基盤になる。

未来を描き、音楽を通じて希望を紡ぐ力が、ステージでの自分を支える。


メンタルトレーニングでそれを体感し、未来と現在と過去を同時につなぐ演奏ができるようになることで、本番が心から楽しみな時間へと変わっていきます。

一人で音楽を続けていく道のりは、決して平坦ではありません。

挫折や葛藤、比較の中で、自分を見失いかけることもあります。

それでも、音楽があなたにとって何か大切なものを支えてくれているなら、

どうかそれを手放さないでください。

メンタルトレーニングは、

あなたが本来の自分を取り戻し、

音楽とより深くつながるための手段です。

心を整え、未来を描く力を育むものです。

音楽家のためのメンタルトレーニングLABOは、

単に緊張をなくすための場所ではありません。

音楽家としての「未来」を描き、

「今ここ」でその一歩を踏み出す力を得て、

共に励まし合う場所です。

あなたが奏でる音楽が、

未来と現在、そして過去をつなぎ、

希望を紡ぐ存在になりますように。

一緒に、音楽とメンタルトレーニングの力で、共に明るく温かい未来と世界をつくっていきましょう!